クリス・ジョーンズが語る炭素の回収と貯留
科学界では、人間が生成した温室効果ガス(GHG)排出が地球温暖化の原因となっているという広範な合意があります。排出できるのであれば、捕捉・除去もできるのではないかという問いに対する答えは「Yes」ですが、簡単ではありません。捕捉することはでき、私たちのできることは行っています。本当に問うべきことは、現実を変えるのに十分なほど速く大規模に、しかも金銭やエネルギー面で可能な範囲で実現できるかということです。
炭素の回収とは、発電所や産業施設などのさまざまな排出源から排出される二酸化炭素(CO2)を捕捉し、大気中への放出を防ぐために貯留または利用するプロセスを指します。回収方法は、燃焼前回収、燃焼後回収など各種あります。それぞれがCO2を他の排ガスや排気流から分離することを含んでいます。
重要な質問のビデオとトランスクリプト
二酸化炭素回収とは
炭素回収は、大気中の二酸化炭素量の抑制方法の1つです。他にも、再生可能電力の使用、原子力発電などの低炭素電力の使用といった方法があります。しかし、最終的には、放出源で二酸化炭素を回収することで大気中への放出を防止するか、何らかの方法で大気から二酸化炭素を吸収する必要があります。
現在の状況
人類は、年間約50ギガトンの温室効果ガスを放出しており、その約70 %が二酸化炭素です。残りの内、約20 %がメタン、8 %が亜酸化窒素です。そして、私たちの業界で特に関心がもたれる植物由来の化学物質もあります。現状では、炭素の回収とは、すべて二酸化炭素の回収を目的としています。現在、年間約7,000万トンの二酸化炭素を回収しています。
IEAは、2030年までに8億トンの二酸化炭素を回収したいと考えています。これまでに予定されている計画回収量は約2億トンに過ぎず、目標まではかなりの隔たりがあります。個々人のレベルで見れば、二酸化炭素の主な排出源はなんといっても化石燃料からのエネルギー生成が第1位です。それ以外の産業界の排出源としては、製鉄業と製鋼業で年間約2.5ギガトンが排出されています。
コンクリート・セメント業界でも年間約2.5ギガトンが排出され、アルミ精錬業界でもやはり年間約2.5ギガトンが排出されます。炭素回収の重要なステップとして、まず、回収をどこで行うのか決めなければなりません。つまり、燃焼前回収、燃焼後回収のどちらを実行するのか決定する必要があるのです。
次に、分離工程で二酸化炭素を他のガスから分離する必要があります。そして、二酸化炭素を分離した後も、海上輸送、パイプライン、トラック輸送のいずれかで輸送する際にも二酸化炭素は発生します。
燃焼前回収と燃焼後回収
工程の中で燃焼の部分は非常に重要です。実は、燃焼前回収は、何らかの形態の気体から二酸化炭素を除去する最古の炭素回収技術の1つです。歴史的には石炭ガスで行われていたものですが、最近は天然ガスでも使用されています。
燃焼後回収技術の場合、現在は燃料の種類が多様なので天然ガスに絞ってご説明します。天然ガスは、燃焼のために空気と混合されます。燃焼後、二酸化炭素を窒素と残留酸素から分離する必要があります。この場合の濃度は非常に低いのですが、濃度が低いほど分離工程で使用するエネルギーが増大し、工程が複雑になり、多額の資本を要します。
炭素の分離方法
二酸化炭素源が発生すると、さまざまな分離技術が考えられます。その1つは、二酸化炭素を吸着する何らかの形の湿式スクラバーを通過させることです。もう1つは、固体の吸着剤や、クライオプロセスにも使用されるメンブレンです。
CCUSとは
CCUとは、「二酸化炭素回収・有効利用」(Carbon Capture Utilization)の略語です。
有効利用について、二酸化炭素は、炭酸ナトリウム製造のための化学原料として使用できます。炭酸ナトリウムは、いわゆるベーキングパウダーのことです。酢やエタノールの製造に使用でき、さらに航空燃料製造にも用いられます。
二酸化炭素の貯留の仕組みとしては、日常的に二酸化炭素を長期間固定する方法を検討しています。環境に戻すかたちですぐに放出するようでは意味がありません。それでは、完全なエネルギーの無駄使いです。
貯留の仕組みには通常、何らかの形の地質構造内に固定することが含まれます。たとえば、岩塩ドームは透過性があまりなく、そうした固定に以前からよく使われています。その後は、ほぼ枯渇した油井や天然ガス井から残留している原油や天然ガスを抽出するための推進剤として二酸化炭素を使用しています。二酸化炭素はまた、炭鉱からメタンを排出するためにも使用できます。
こうした具体的な用途を通じて見られる考え方は、基本的に二酸化炭素を構造内に固定してそのまま維持するということです。
クリス・ジョーンズ
環境ソリューション
事業開発マネジャー